#2 本との出会い


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今日は奥多摩に来ています。

自分の中で対話的であることや、スペースを生み出すこと、クリエイティブな状態に置くための「実験」と称して、大好きな新緑、木々を揺らす風、川の流れる音に包まれて、身体が解けるような心地よさを味わっています。…温泉にも入りましたので(笑)


先日お気に入りの本屋さんに行ったときのことです。

新刊本を探して店内をぐるりと回ったけれど見当たらず、次の予定時刻も迫るなか、何となく後ろ髪を引かれて平積みの本を見ながら出口へ向かって歩いていました。

ふと表紙に貼られた「TVや雑誌で話題」というポップが目について、1冊の本を手に取りました。

手触りの良い白い紙に藍色の文字で印字が施された、シンプルだけれど美しい装丁の本でした。

何気なく開いたページには2歳くらいの可愛らしい男の子の写真と、手紙のような文章が載っていました。男性の写真家の方のエッセイのようでした。

ぱらぱらとめくると、まっすぐな家族への愛と感謝に溢れる言葉が並んでいました。また不思議なほどに謙虚で、どうして周りの人にこんな心持ちでいられるのだろうかと思いました。そして同時に、何故か寂しさが滲んでいました。思わず本を手にレジに向かっていました。

支払いを済ませて店を出ると、空が眩しく、街路樹があたたかい強風に揺れていて、急に夏になったような不思議な感覚でした。


読み始めると、どうしてその本がそんなに愛や感謝、謙虚さに溢れているか、なんで寂しさを湛えているのかすぐに分かりました。その写真家の方は、病気で3年の余命宣告を受けたと書かれていました。

本を読みながら、もう一冊、死と生を扱った本を思い出していました。

友人が薦めて出会わせてくれたミッチ・アルボム著「モリー先生との火曜日」(原題「Tuesdays with Morrie」)です。

モリー先生は本の中でこういいます。

「誰でもいずれ死ぬことはわかっているのに、誰もそれを信じない」と。

だから、肩に小鳥を止まらせて、聞いてみるんだそうです。

「今日が、私の死ぬ日かな?」と。


2年ほど前、月刊誌「みんなねっと」*の特集企画で、「死をみつめ、いまを生き、語ること」というテーマで開かれた語り聴くミーティングに参加させていただきました。

ひさしぶりにその時の記事を読みました。その中で、ある方が、死を「自然に還る」という言葉で表現していました。

渓流に降りて、ちょうどよい岩の隙間に身体をあずけて、早瀬の水音の中、ぼんやりと山の景色をみている時、ふとその「自然に還る」という言葉が頭に浮かんでいました。

自然を感じることのなかに、新しい意味を見出したような気がしました。

*「みんなねっと」…公益社団法人全国精神保健福祉会連合会が発行するご家族向けの月刊誌

■文中の本はこちらをご参照ください

「ラブレター」幡野広志

https://neconos.net/books/loveletter/

「モリー先生との火曜日」ミッチ・アルボム

https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000817302018.html

月刊「みんなねっと」2021年6月号 特集「死を見つめ いまを生き 語ること」

https://seishinhoken.jp/magazines/0fd65ea3fab34f78966df40c1ed91161b83c3a0c